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連載エッセー 「障子戸の中」 下川顕陽
第十二回

 クリーニング屋で服をピックアップしようとした時に、店内で見た光景である。客である50才前後の女性が、ピックアップ・カウンター越しに店員へ向かって、物凄い剣幕で怒鳴っている。

 町内のおばさん風のその人は、「どうして私の服を出してくれないのよ?!」とか「いつも私は、この店にたくさんのクリーニングを頼んでいるじゃないの!つまり、私はあんたたちにとって、お得意さんということじゃないのよ!」などと、店員を指差しながら訴えている。中年女性の店員は、おばさんの迫力に押され気味ながらも、「でも、だめなんです。規則なんです、マネージャーに、それは許可されていないと言われているんです」と小声で対抗している。
 
 私は、はて、何が起っているのだろう?と思いながら、自分が服をピックアップする順番を待ちながら、その光景を見ていると、客の方が折れ、「分かったわよ、金払うわよ。早く私の服、出してよ!」と言い、出された服を取りながら、10ドル程をカウンターに叩きつけ、ふてくされながら店を出て行った。

 何が起ったのかと私は店員に尋ねてみた。その客は、3か月程前から、この店を利用し始めたが、いつもクリーニングを「ツケ」で払うということである。次回に支払うということで、ほとんど毎回、全額の支払いをしないそうだ。そして、次回には前回の分ツケの額を支払うが、その回の分は、次回に回し、それを繰り返しているとのことである。町内で占いの店を経営しているそのおばさんは、これまで町内の他のクリーニング屋数店で、同じことを繰り返しており、それらの店からは閉め出しをくらい、今度はこの店に来始めたのだと、店員は教えてくれた。

 クリーニングのツケというのも珍しい。たまたま、その時に現金の持ち合わせがなく、またその店とは馴染みなので、明日に支払うということで服を受け取るという状況は考えられるかもしれないが ----- いや、余程の緊急事態でない限り、現金の持ち合わせがなければ、現金を持って改めてピックアップするというのが普通である筈だ。ツケを通常の手段にして、挙げ句の果てには、ふてくされたように金を相手に叩き付けるその神経たるや、あきれるほどである。

 以前にニューヨークの寿司屋で、このような光景を見た。目つきの悪い、いかにもトラブルの匂いをかもし出している客が、自分へ運ばれて来た寿司を見て、店員に自分はこのような品は注文していない、取り替えろとクレームを付けた。その客の隣に座っていた私は、「ああ、やっぱりな。面倒臭い客だったんだ、この人」と思いながら、それとなく彼らのやりとりを観察していた。

 店員が、確認のために客がオーダーした品名を言うと、そのアメリカ人の客は「自分は確かにその品名でオーダーした。しかし、自分が本来食べたかった品の名前を明確には知らず、とりあえず、あんたが今言った品名で注文した」と高飛車な口調で言った。そして、「自分が食べたかったのは、あの品だ」と言いながら、近所の他の客が食べている品を指さした。アメリカ人だったので、たぶん日本料理に詳しくはなかったのだろうが、あまりにあきれた奴である。

 店で一生賢明に値切っている客を眼にすることがある。確固たる理由があって値切るケースもあるが、特に理由もなく値切るケースもある。「いやあ、特に理由はないんだけどさあ、安くしてよ。いいじゃない、いつもあんたの店来てるんだからさあ。これからも来るからさあ」とか言い、それでもディスカウントを断られると、「高いんだよ、てめえの店は」と悪態をつきながら、結局はツケにする。そして、支払いは遅れる。

 「お客様は神様」と言うが、不条理な行為に出る客は、どうゆう神経をしているのかと思う。最初に自分が受けたいサービスの内容と、その料金を確認したと自ら認めた上で、値切る人間もいたりする。彼らのやっていることは、飯を喰い、酒を飲んでから、金を持っていないと居直るという行為に等しい。神様ではなく、まるで乞食である。
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by officekei | 2005-08-21 07:04
連載エッセー 「障子戸の中」 下川顕陽
第十一回

 この間の土曜日の朝、うちのアパートの裏庭へ向いた窓のブラインドを上げると、窓のすぐ傍に黒猫がばったりと倒れていた。窓の下から庭に向けて2メートル程はコンクリートのスペースがあり、そこから庭の奥に向けて高さ20センチ程の草むらが広がっているのだが、その黒猫は下半身を草むらに入れ、上半身は草むらからコンクリートの上に出した状態で、ぐったりと横倒れになっている。

 夏の午前の強い日射しを浴びた猫の姿は、眠っているようには見えない。その姿は、行き倒れというにふさわしい。草むらを出る瞬間に力尽き、ばったりと倒れたというところか。猫の片腕は不自然にひねられた形で、空しく天へ向けられている。そのひねられ方が、彼の(彼女の)叶えられることのなかった、ささやかだが、ひたむきな想いの結末を表しているかのようであった。

 そんな所で行き倒れるなよ、猫はおのれの死を感知したら、そっと消えて、人目に触れない場所でひっそりと死ぬ生き物なのだ、貴様には猫としてのデリカシーが欠けとるぞ、人のベットルームの真下で死ぬなよ、朝起きて、いきなり黒猫の死体なんか見たくないぞ、ばかたれ、と私は想いながらも、いや、おれのベットルームの下で猫が、それもよりによって黒猫が死ぬなどという不吉なことが起るわけがないと自分に言い聞かせつつ、手で窓ガラスを叩いた。私は、猫があくまでも眠っていると信じかったからだ。しかし、猫は起きない。猫の上を数匹の蠅が飛び交っている。蠅が猫の耳の近くを飛ぶも、耳は全く反応しようとしない。

 困ったなあ、猫の死体の後始末なんかしたくないぞ、それも黒猫なんて。情けない話だが、私は猫の始末をうちのアパートの他の住人にお願いしようと思い、そのような仕事をしてもらえそうな住人の部屋へ行き、部屋のドアを叩いた。しかし、その住人はいない。その朝、怖い夢を見たが、それはこの状況を予言した夢であったのだ、私の枕元から数メートル離れた場所に転がる黒猫の死体が、その存在のオーラを私の潜在意識に送っていたのだ、と思いながら、私は自分の額をそのドアにがったりと傾け、眼を閉じて自分のこの境遇を心の中で嘆いたのであった。

 どうしよう。これも私の運命かと、再び猫の姿を --- 意味もなく --- 確認するためにベッドルームの窓に戻り、窓の外を覗く。あれえ、猫の倒れ方のポーズが変わっとるぞ。顔と上半身が空へ向いとるぞ。やや口を開け、おおらかに日射しを浴びている。私は窓を開ける。その時の音に猫は反応しない。私は両手をパンパンと叩く。すると、黒猫はのろのろと身を起こし、こちらを見る。こらあ、変な格好で眠ってんじゃねえ、と私がどなると、猫の野郎は、逃げ出すわけでもなく、身をけだる気に地へ這わせ、「なんだよお。寝てるだけじゃねえかよお」というような表情で、窓の中の私を見つめ返した。

 まったく、人騒がせな猫である。うちの裏庭には野良猫、他の家で飼われている猫が集まるのだが、時々、「死んだような演技で眠る猫」というような面白い光景を見る。ある時など、正常位で交尾する猫のカップルを見たことがある。隣のアパートの庭にマットレスが置かれており、そこで、そのような眼を疑う光景が展開されていたのである。

 マットレスのおかげで、猫背にもかかわらず、そのような体位ができたようだ。オスは、こちらに背中を向けて懸命に励んでおり、メスは仰向けで無表情に宙を見つめている。一人前にも、彼らは互いで互いを軽く腕で抱いていた。何、これ?と私は狐につままれたような気分で、彼らを観察していたら、時おり私が餌を与えていたそのメス猫は、私の視線に気づいたようで、こちらを見た。彼女はいつものクールな顔つきで窓の私を見ている。「これが私の性(さが)なのよ。だから、どうしたの?」と言わんばかりのムードであった。私は彼女の気持ちを尊重し、窓を離れた。あれは不思議な光景だったなあ。

 数人の友達と窓辺で喋っている時であった。一人が裏庭を指差しながら、「あっ!」と叫んだ。我々がその方向を見ると、隣のアパートの庭に、見たこともないような生物が歩いている。それは、チャウチャウ犬と狐が合体したような生き物である。姿が全体的にチァウチャウ犬に似ており、顔と身体中の毛の生え方と色が、狐のそれである。不気味極まりない。私は、そんな生物を見たこともないし、それまでに、それが庭に現れたのを目撃したこともない。

 我々は窓に集まり、「あれ何だあー!」、「あんな生き物、見たことある?!」、「げー、気持ち悪うー!」と、その生物を見ながら騒ぐが、そいつは、こちらには気も止めず、勝手知ったる他人の庭という態度で、のんびりと散歩している。庭のまわりは、アパートと家のに囲まれているので、外部からそいつが侵入して来たとは思えない。第一、ニューヨークの通りに、こんな謎の生物が生息しているわけがない。

 考えられるところとしては、南米あたりから、このエキゾチックな生き物をアメリカに連れ帰った人が、知り合いの家に、その生き物を散歩がてらに連れて来、自分は知り合いと雑談している間に、庭にそいつを放したのかもしれない。その生き物が庭に現れたのは、後にも先にも、その時一度だけだった。うちのアパートでは、窓を開けると、時々奇妙な光景を見ることができる。
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by officekei | 2005-08-13 14:02
連載エッセー 「障子戸の中」 下川顕陽
第十回

 先日、ランドリーで洗濯をしていた時に、店内に『宇宙戦争』の海賊版DVDが落ちていたので、私は「しょうがないなあ、このような物が世間に出回るなんて」とか思いながらも、公開中の映画の海賊版DVDとは、どのようなものなのかと興味を持ち、自宅へ持ち帰った。

 くれぐれもお断りしておくが、私は決して、海賊版のDVDやCDが詰まったリュックサックを背負い、ランドリーに入って来ては、ニコニコと微笑み、人々へそれらを売ろうとする、人の良さそうな中国人のおばさんから、この『宇宙戦争』を5ドルで買ったわけではない。あくまでもランドリーの洗濯機と洗濯機の間に、それは落ちていたのだ。私は劇場まで足を運び、お金を払って『宇宙戦争』を観ている。それも2回も。DVDが正式に発売されるのも、今から首を長くして楽しみに待っている。だから、僕を逮捕しないで下さい。

 ともかく、自宅でそれを観てみた。案の定、中身は『宇宙戦争』はなく、別の映像だった。代わりに収録されていたのは、トム・クルーズとケイティ・ホームズのプライベートなビデオであった。というのは冗談です。あの、冗談ですので、僕に訴訟を起こさないで下さい。
 
 『宇宙戦争』は入っていたが、なんと、オープニングのタイトルとクレジットがロシア語であった。英語のタイトルの下にロシア語のスーパーが入っているというのではなく、それ自体がロシア語だった。ロゴのデザインが、オリジナルのそれと同じなので、映画制作の際に、フィルムメーカーが、そのようにほどこしたのだろう。ということは、このDVDはロシアからアメリカに入って来たということか?もしくは、アメリカの業界内で出回っているロシア語バージョンなのか?劇中の言葉は、オリジナルのままの英語ではあった。

 DVDは紙製のカバーに入っており、それがセロファンの袋に入っている。そして、一般に販売されているDVDのパッケージと同じような、タイトルと写真が印刷されたジャケットが、DVDの入った紙のカバーの表と裏に差し込まれている。ジャケットにはキャスト・スタッフのクレジットや、映画会社のロゴ、製品自体のデータ等は印刷されておらず、もちろん不法販売等への警告文もない。しかし、解説文はあり、そこには「今度の夏に公開されるので、乞う御期待」という内容が記されている。

 映画を観続けてみる。どうやらDVDマシーン2台を使い、ダビングした品ではなく、コンピューターでバーンしたらしく、画像の粒子が荒く、動きが、ややぎくしゃくとしている。それでも鑑賞に耐えられないというほどではない。音声のレベルは低い。テレビのボリュームを上げると、ノイズのレベルも上がり、耳にさわる。しかし、そのような鑑賞しづらい状態でありながら、そのような技術的な問題を忘れ、映画に引き込まれたのは不思議だった。このような状態でも楽しませることができる、スピルバーグの才能をつくづく再認識した。

 画質、音質は悪いが、全編が入っていたのは意外であった。8年程前に観た海賊版は、劇場でビデオカメラを使い、上映中のスクリーンを撮影したという代物で、観れたものではなかった。13年前であったか、ハリウッド映画の海賊版を、一度だけ道ばたで買ったところ、なんと、中身は10分程度のポルノ映画の予告編集だったということもあった。そのビデオパッケージのジャケットをよく見ると、劇場の入口に張られているポスターをカメラで撮影した写真だった。ここまで凝りつつも、たった5ドル程度で売るというのは、この不法商売が、それなりに金になるということか?

 私の何人かの友達は、年末年始の映画賞シーズンに、映画業界内の投票者へ映画会社から送りつけられる試写テープを、どこからともなく入手していた。町のレンタル・ビデオ店を経営していた知人も、ビデオ発売前にサンプルとしてのテープを映画会社からもらっていた。そのような所からコピーが、人々の手へ渡って行くのだろうか?

 しかしながら、ここで私が声を大にして言いたいのは、こうゆう品を売ってはいけないし、買ってもいけないということだ。そのような行為は、法律違反云々と言う以前に、映画の作り手への冒涜である。上記のように、私はその昔、海賊版を道ばたで買ったことが一度だけあったが、それは若気の至りと興味本意の行為であったことが、今になっては悔やまれて仕方がない(中身は幸いにして、予告編集であったが)。

 今回のように、仮りにも洗濯機と洗濯機の間に落ちていたとしても、断固として海賊版DVDの試写を否定しなければならない。改めて私はそう思い、このDVDはドリームワークスへ、明日郵送することにする。
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by officekei | 2005-08-06 02:59
くりぃむしちゅーのお笑い世界征服宣言!ラスベガスロケ日誌
よしです。

先週土曜日夕方、TBSで「くりぃむしちゅーのお笑い世界征服宣言!夢のラスベガス」が無事放送されました。 このロケをロスのりょうこさんと一緒にコーディネイトしたのですが、ここまでくるのにそれはそれは苦節難局、大波小波を乗り越える苦労をしたのでした。

3月からロケの準備があり、5月にはほぼ仕込みも終わって私は一人最後の仕込みの仕上げのためにラスベガスに乗り込んでいました。最初のくりぃむがストッレッチリモに乗り込むシーンの現場を探してあちこち車で移動して、なんとかいい場所を見つけてホテルに戻ったところで携帯が鳴り、「西本さん、申し訳ないけどビザの遅れでロケが延期になった...」

それから仕切り直して6月になり、りょうこさんがラスベガスに乗り込んで日本からのスタッフを待っていたらいくらまっても空港にこない。確認すると、ロサンジェルス空港で移民局に捕まって強制送還される事になったと....

これはなにかのたたりか、のろいかと思いながらきっと番組が中止になると思いきや、夏の一番暑い時期にロケを再開する事になったのでした。

7月1日からロスに乗り込んで、最初はペナルティーとFUJIWARAの4人と一緒に、デスバレー(死の谷)経由でラスベガスにドライブしていくロケでした。4人は5時間運転してラスベガスに入ったら自由に遊んでもいいといわれたようだったが、結局彼らが到着したのは4日の夜9時過ぎで、次の日の朝8時にホテルに集合して日本に戻っていったのでした。
デスバレーは真っ白い雪のような湖面(湖のようにみえる)に100メートル以上歩いていって、そこで温度を測るとなんと50度ありました。アメリカ全土でもっとも気温の高い場所で、真夏に1時間以上撮影をしたのですから、スタッフもたまりません。氷で冷やしたスイカをもぐもぐたべながらワッキーさんが「うめぇ〜〜」となんども叫んでいたのが印象的でした。

このデスバレーでへとへとになってドライブしていると、突然FMラジオから奥田民生の「うめぼし食べたい」が流れるではありませんか! みんなこんなラジオも入らないところで奥田民生の曲が聴けるなんて、しかもへとへとになって日本が恋しいところにずばり、こころをうつような曲がかかるとは! と感激をしていたところ、じつは技術スタッフのiPodをFMトランスミッターで飛ばして聞いていたので、技術者もタレント車も3台とも同じ曲を聴いていたのでした。
技術の進歩はすごいですね。

ワッキーさんの32歳の誕生日を自らカジノでぼろ勝ちして演出して、このロケはへろへろになりながらもみごとに終わったのでした。(つづく)
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by officekei | 2005-08-02 04:41